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  • 執筆者の写真二条まりあ

かなしい話。



ある所に

男の子と女の子がいました。



二人はとっても仲良しでした。



男の子は、女の子が

とってもとっても好きでした。



とってもとってもとーっても

女の子のことが好きでした。



二人は一緒に過ごすようになりました。



男の子は、


花を見て笑ったり、

本を読んでいる横顔だったり、

一所懸命に作ったケーキを焦がしたり、


女の子の色んな姿を見るのが

幸せでした。



このままずっと女の子に安心して、

笑ったり泣いたりしていて欲しい。



そう思った男の子は、

女の子と結婚しました。




ところが。



それから女の子は、ケーキを焦がすと

とても落ち込むようになりました。



男の子は、

ケーキを焦がした女の子のコトが

大好きだったので


ケーキなんていいじゃない、と声をかけましたが


女の子は、

そういう問題じゃないの、と

つらそうに泣きました。




女の子は本を読まなくなりました。



男の子は、

本を読んでいる女の子が大好きだったので

この本、読んでみたら?とすすめてみました。


でも女の子は、

私にそんな時間はないの、と

イラだった声で背を向けました。




女の子は花を見て、笑わなくなりました。



男の子は、

もう花が好きではなくなったのかと思って

お花を贈るのを止めました。



すると女の子は

あなたはもう私を愛していないのだ、と

さめざめと泣いて、部屋にこもってしまいました。




それ以来。



いつもケーキは上手に焼けて


本はきちんと片付けられて


お花は咲いていたけれど



女の子はいつも

鏡を見て過ごすようになりました。



男の子が

何をしても、何を言っても



女の子は

鏡の中に向かって話をするようになりました。



男の子の言葉は、鏡の中で逆さまになって

女の子の耳に届くようでした。



男の子のプレゼントは、

女の子の欲しいものと逆さまになって

女の子の目に届くようでした。




男の子は

女の子のすぐそばにいましたが


女の子は

鏡の中の男の子と話をするのでした。






そして。



ずっと時間が経った

ある日。





女の子は、ふと、

鏡から目を離しました。




するとそこには、

男の子が女の子の為に持って来た


綺麗な石や、優しい言葉

夢のように素敵な絵本が


沢山の枯れてしまった花と一緒に

置いてありました。




そして初めて。



女の子は、

自分が欲しかったのは

自分が思っていたものじゃなかったと

知りました。




そして女の子は

男の子の名を呼びましたが


もうそこに男の子は

戻ってきませんでした。






おしまい。



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